君と僕の一夜物語


「こ、こ、こんなに、
受け取れません!
シオン様、この半分でも
十分過ぎますのでどうか…」


「いいよ、馬預かるだけじゃなく
荷物運びも手伝ってもらったし
あと別に俺、貴族じゃないから
様付けなくたっていいんだけど」


「い、いえ…お客様には、
皆そう呼ばせてもらっていますし…
でないと、僕が父に怒られるので…」


「若いのにえらいね
料金の多い分は、クルーの
自分の小遣いにでもしておいて
最近儲かったから気にすんな
じゃあな、元気で」


「あ、そんな…
あの、ありがとうございました!」



クルーからの返金を許さず、
矢継ぎ早に言い終えた後
さっさと馬車に乗って去った


『…』

「お別れとかしなくていいのか?」

『何に?』

「クルーとかこの町とか」

『…別にいい。
いい思い出ばかりじゃ、ないから』

「…そうか」



ガタガタと揺れる馬車の上

リファは少しだけ振り返り、
また前を向いた



こうして、
2人の旅は始まった


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