心も体も、寒いなら抱いてやる
それにしても今日は驚くことがたくさんあった。それはすべて俊に関することだったけど。

夜ご飯の鍋を母と2人でつつきながら「ふぅ」とみのりはため息をついた。

太一は近所のディスカウントストアでバイトをしていてまだ帰ってきていない。

「どうしたの? ご飯食べながらため息なんて」

寄せ鍋というか、食べたいものをすべて突っ込んでしまったごった煮鍋。母は鍋に浮いたあくをせっせと取り除いている。

「ねえお母さん、太一が中学生のときにいじめにあってたって知ってた?」

火を弱めながら、「なーんとなくね。一時、打撲が絶えなかったじゃない? いじめかなって思ったけど、聞いてもあの子白状しないから。でも目の色が少しでも暗くなってきたら手を打とうと思って注意はしていたのよ。結局は闘志を宿した瞳のまま、自分で乗り越えたみたいだけど」

「目の色?」

「そう。瞳に少しでも影が宿ったらアウトだから」

母親独自のSOS探知機をしっかり張っていたわけだ。

「そうなんだ。全然気づかなかった。私。姉ちゃん失格だわ」

再びみのりはため息をついた。
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