心も体も、寒いなら抱いてやる
「そう、やつはワーゲンのビートルが好きなのよ。丸っこくて可愛いところが似てるって名づけたの」

『やつ』という呼び方に花蓮の腹立ち具合がうかがえる。

「ふうん、そうなんだ」

テントウムシ型のかわいらしいビートルをぼさぼさ頭の俊が大きな体を丸めて運転する様子を想像し、みのりは笑いが込み上げてきた。

「なに?」

「いや、俊くんとビートルって似合うなって思って」

キャリーバッグをのぞくとビィがまん丸で真っ黒な瞳でのぞき返してきた。

おとなしく丸まっているその姿は確かにビートルっぽい。

それにしても日がずいぶんと伸びた。太陽はまだ西の空に高くある。

どこからか漂ってくる甘い花の香りをみのりは思い切り吸い込んだ。

薄着をするにはまだ肌寒いけど、春だ。

理由は何にもないけど、みのりはなんだか楽しくなってきた。
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