琥珀の記憶 雨の痛み
自分のことさえ、ランク付けしてたんだ。
堕ちていくそれを他人事のように眺めながら、少しだけ自嘲を漏らしたかもしれない。

『新田莉緒』だけを目で追っていたから、周りの順位は見えなくなった。
ただそれが一番下に到達して、ぽすんと小さくバウンドするのを確認した後は、なんでか少しだけ視界が晴れた気がした。

最下層に堕ちたその小さな塊を残して、ずらりと並んでいたはずの他の人たちはどこにもいなくなった。
もしくは、遠すぎて見えなくなったのか。


――仕事中だ。
顔を上げた時には、不思議と何か吹っ切れたような気持ちになっていた。


「岡本さん、レジ締め始めますか?」


時間を見てそろそろだな、と思っていても、今までなら指示を待っていたところだ。
自然とそういう質問が口から飛び出した心境の変化は、自分でもよく分からない。

一番下まで堕ちて吹っ切れたのは良かったことなのか、卑屈になっているだけなのか。


ただこの日私は、自分から指示を扇いだら、ただ待っているだけの時よりも任されることが多いのだということを初めて知った。

もしかしたらこれが、信頼を得る第一歩だったのではないかとか。
……そう考えるのは、甘いことだろうか。


救いようのない底辺の人間だと自覚するのは、すごく痛くて苦しいことだった。

けど、これ以上堕ちることはないのだから。
そう考えれば、怖いことなどないようにも思えたんだ。
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