琥珀の記憶 雨の痛み
6月になって気が付いたこと。

バイトを始めてからこれまで、小雨に降られる程度ならあったけれど、大雨に見舞われたことはなかったんだってこと。

裏を返せば奇跡的な晴れ女だったのかもしれないけど、それもさすがに梅雨の猛威には勝てなかったようで。


「あー雨ぇー。もうやだぁー!」

従業員出入り口を出た途端の憂鬱な光景に、ぱん、と音を立てて傘を開きながら、ナツがつまらなそうに口を尖らす。

「まあいいじゃん、カラオケ行こうカラオケ!」

その隣に並ぶように、メグがぴょんっと外に飛び出した。


モールの従業員出入り口側の壁にはほんの少しひさしがあるものの、今日のような強い雨降りの時には何の役にも立たない。

梅雨入りしてからここでのおしゃべりタイムの頻度はぐっと減っていた。

代わりに屋内でその時間を楽しむために、みんなはゲームセンターやカラオケやファミレス、たまにはCDショップなんかにも向かう。


タケのフォローもあってあの後も自然とこのグループの中にいられた私だけど、初めから長くなることが分かっている上に途中抜けがしにくいカラオケやファミレスの日は、着いていかないことにしていた。


タケはあの日以来、本当に家まで送ってくれるようになった。
もちろん、お互いのシフトが合う日だけだけれど。
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