琥珀の記憶 雨の痛み
「新田さん」

「え……はい!」

周りにお客様はいない。
レジの横に立って声をかけてきたのは、さっきまでは見当たらなかったレジ担当の社員さんだ。


「岡本さん。あれ、どこか行かれてたんですか?」

「そうなの、ちょっと事務所に来客で。忙しかったでしょ、ただでさえ人が少なかったのに……不在にしてごめんね」


『事務所に来客』――クレーム対応だ。
お客様のご自宅まで謝罪にでも行ってきた帰りなのか、岡本さんはいつもの制服ではなくスーツ姿だった。


岡本さんに続いて、青果担当の社員さんも現れた。
こちらは別にクレームとは関係なく売り場にいたのだろう、普通に青果コーナーの制服を纏っている。


「うちのが練習させてもらって、ごめんねー。邪魔だったでしょ」

顔は知ってるけど名前は知らない、その人の良さそうなおじさん社員さんが笑いながらユウくんを指差した。


「え、そんな。邪魔なんて別に。レジ応援入っていただいて、助かりました」


いや、本当は、応援要請が終わってから来た上に空いてきてからもずっと居座るから、なんでだろうとは思っていたけど。
確かに、多分私が1人でやった方がずっと速かったし。

そっか、応援じゃなく、ユウくんの練習だったんだ。

でも不慣れな上にまだマネージャーからのOKも出ていない1人制でテンパってたし、例のピーマンのお客様の時には本当に助けられた。


おじさん社員さんは「社交辞令はいいって」と笑って流し、ユウくんの方へと話を振った。

「どうだ、良い練習になったか」
< 82 / 330 >

この作品をシェア

pagetop