臆病者の鬼遊び
彼は、物干しから戻ってきた七海子を呼び寄せた。
七海子は、花代さんも手袋も見付からなかったのか、ビニール袋を手に被せて、輪ゴムで留めていた。
不器用なくせに、よくこんな工夫をよく思い付くものだ、と感心したが、
倫太郎は役目を終えたビニールをさっさと取り払ってしまった。
七海子は戸惑ったが、倫太郎の手に絆創膏と消毒液が握られているのを見て、つい謝った。
「ごめん……」
「謝るな。お前は何も悪くない」
しかし、その口調は怒っているようにきついものだった。
「傷口は、洗ったか?」
「うん」
倫太郎は消毒液を含ませた脱脂綿をつまむと、七海子の傷に這わせた。
沁みるのか、倫太郎の長い指が動く度、七海子の手が痛みに緊張してぴくり、ぴくりと固くなる。