黒太子エドワード~一途な想い

ブロワの最期

「ゲクラン! ゲクランはどこだ!」
 同じブルターニュ出身ということもあり、33歳でフランス王シャルル5世に仕えるようになるまでは、ずっとシャルル・ド・ブロワに仕えてきた乱暴者の名を、ブロワは必死で呼んだ。
 が、混乱した戦場の中で、彼の叫び声はベルトランまで届かなかった。
 届いたのは、むしろ──
「へぇ、良い服着てやがんな! お宝じゃねぇか!」
 目つきの悪い男がそう言うと、馬から落ちても尚、ベルトランを探すシャルル・ド・ブロワの前に立ちふさがった。
「カーター! 今回は捕虜をとるなとの命令だぞ!」
 その目つきの悪い男の傍で、別の若い男がそう叫ぶと、目つきの悪いカーターはニヤリとした。
「ほう、そうか。んじゃ、さっさと死んでもらって、上等な服や剣を手に入れるしかねぇわな。悪く思うなよ!」
 彼はそう言うと、大きな斧を振り上げた。
 カン!
 斧は強力な分、重いので、振り下ろすのに少し時間がかかり、ブロワは剣でそれを受け止めた。
「ほう……。良いとこのぼんぼんにしちゃ、ヤルじゃねぇか!」
「これでも、総大将なのでな! お前のようなどこの馬の骨とも分からん輩などにやられる訳にはいかんのだ!」
「フン、言ってくれるじゃねぇか! だが、いつまでもつかな?」
 そう言うと、カーターはじりじり斧を下していった。
 貴族として育ったシャルル・ド・ブロワにも剣の心得はあったものの、傭兵で、しかも力自慢の斧使いが相手では、分が悪すぎた。
 しかも、今回は捕虜をとらず「殺せ!」という命令が出ていたのである。相手は、確実にブロワの息の根を止めるつもりでかかってきていた。
「く、くそっ……!」
 押されて、防いでいるはずの自分の剣が目の前まで迫ってくる中、ブロワは叫んだ。
「ベルトランっ!」
 ──そして、それが彼の最期の叫びとなってしまったのだった。

「ブロワ様、ブロワ様っ!」
 やっとそのベルトランが彼の亡骸に辿り着いたのは、既に身ぐるみ剥がされた後であった。
 かろうじて下着は着ていたが、それも血と泥で汚れ、顔が見えなければ、彼だと分からない程であった。
「くっそぉ! イングランド軍め! 鎧から装飾品まで全部持って行きやがって! これじゃ、奥方様に何も持って帰れやしねぇじゃねぇか! 本当に酷いことをしやがる!」
 ベルトランはその有様に激怒してそう叫んだが、その周囲にはじりじりとそのイングランド兵がにじり寄ってきていた。ベルトラン自身も目の前のブロワと同じ目にあわせようと思って。
「うおーっ!」
 それに気付いたのか、ベルトランは大声でそう叫ぶと、もっていた斧をドンと地面に突き刺した。
 それに込めた気迫のせいか、あたりに砂埃がたち、じりじり近寄ってきていたイングランド兵の足が止まった。
 流石にゲリラ戦で何度もイングランド軍に煮え湯を飲ませてきたフランスの大将軍、ベルトラン・デュ・ゲクランとは分からなかったが、そんな簡単に倒せる相手ではないということは分かったようだった。
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