黒太子エドワード~一途な想い
13章 黒太子、イングランドへ

ランカスター公ジョンの横暴

「それに、お聞きですか? 最近、ロンドンでの実権は、あなたの弟君のランカスター公ジョン様が握ってらっしゃるそうですわよ」
「何? 父上は? 父上はどうなされておるのだ?」
「それが………昨年、フィリッパ様がお亡くなりになられてからというもの、めっきり気弱になられたとかで………」
「あの父上が、か?」
 目を丸くしながら黒太子がそう言うと、ジョアンも困った表情で頷いた。
「ええ。私もお強いイメージしかなかったから驚いたのだけれど、モードだけでなく、トマスやジョンも同じことを書いてきているの。あなたに早く戻って来て欲しいって………」
 トマスは既にケント伯を継承し、さる貴族の令嬢と結婚もして子供をもうけていたが、ジョアンと黒太子が再婚すると言った時には、真っ先に反対した長男でもあった。
 既にジョアンとの間にエドワードとリチャードの二人の子供を授かり、夫婦と子供のいる生活にも慣れてきてはいたが、長男トマスに反対されたことは、昨日のことのように覚えていた。
「そうか………。あのトマスまで、私に戻って来いと申しておるのか………」
 どこか遠くを見ながら黒太子がそう言うと、ジョアンはそんな夫に近付き、こう言った。
「ええ。ですから、早く戻りましょう! ロンドンをランカスター公ジョン様の好きに牛耳られてしまっては、フランスとの戦いどころではありませんから」
「確かに………。金を取られてしまっては、戦いなど出来んからな」
「ねぇ、そうでしょう?」
 そう言うと、ジョアンは黒太子の袖をつかみ、上目遣いに夫を見た。
 彼女のこういうしぐさに、黒太子は弱かった。
「仕方ないな………」
 頬がこけた顔で照れた表情を作って彼がそう言うと、ジョアンはほっとした表情になった。
「ジョアン………」
 そんな彼女を夫は、優しく抱きしめた。
 かなり痩せて、骨が分かるようになってきたものの、それでも夫の変わらぬ愛を感じ、ジョアンも彼のするばままにさせた。
 少し元気になって来たとはいえ、先日まで血痰を吐いたりしていたので、黒太子自身もそれ以上のことはしなかったが。

「何? 兄上が戻ってこられるだと? 病で寝たきりではなかったのか?」
 一方、ロンドンの王宮を父、エドワード3世に代わって牛耳り、玉座に座って謁見もするようになっていたランカスター公ジョンはその知らせを聞くと、顔をしかめた。
 エドワード3世と亡きフィリッパ王妃の間には、黒太子を含めて7人の子供が生まれたが、その大半が既に亡くなっていた。
 存命なのは、黒太子とそのすぐ下のイザベラ、現在専横を行なっているジョンとその下のエドマンド・オブ・ラングリーの4人だけであった。
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