黒太子エドワード~一途な想い

母とその愛人

「まさか、ちゃんと教皇様から特免状を貰うなんて……。そんなに好き合ってたのかしら、あの子達。まだまだ子供だと思っていたのに……」
 息子のエドワードとフィリッパ・オブ・エノーが結婚式を挙げ、共に暮らし始めるのを少し離れた部屋の窓から見ると、母のイザベラは乱れた髪をとかしながらそう言った。
「はは、心配することはない。まだ、どっちも子供さ。一六と一四だったぞ? 何も出来やしないさ!」
「そういう心配をしてるわけじゃないんだけど……」
 イザベラが困った表情でそう言うと、ベッドで横になっていたロジャーは、構わず手招きした。
「じゃあ、何も心配することはあるまい?」
「それはそうだけど……」
「子供を心配する君も魅力的だが、どうせなら母親より女の顔をしてる方がいいな。ほら、早く!」
 そう言うと、ロジャーはイザベラの手をとって、ベッドの方に引っ張っていった。
「もう、あなたったら、本当に仕方が無いわね」
 そう言いながら抵抗しないイザベラは、まだまだずっと自分達の世が続くと信じていた。まさかそれから約二年後に幽閉されることになろうとは、夢にも思っていなかったのだった。

「フランスの王位、ですか?」
 自分の部屋より広い、母イザベラのサロンに呼ばれたエドワードはそう言うと苦笑した。
「ええ。私がフランス王フィリップ四世の娘で、カペー朝の血を引いているのは知っているでしょう?」
 そう言うと、イザベラは、年を感じさせない、優雅な笑みを浮かべた。ヨーロッパの貴族から「佳人イザベラ」と言われたその美貌は、未だに衰えていないようだった。
 息子のエドワードは、それが虫唾が走る程嫌いだったが。
「無論、存じておりますが、そういうことでしたら、母上が正式なフランス王に名乗りをあげられればよろしいのではありませんか?」
「私では、無理よ。弱い女の身で、何が出来るというの?」
 そう言うと、イザベラはフリルのついた豪華な扇で口元を隠した。
 
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