黒太子エドワード~一途な想い
「このような時に、休戦などと悠長なことを言いおって……!」
 黒髪に白いものが混じり始めた男はそう呟くと、歯ぎしりをした。
「せっかく、あの陰湿な兄上の宝を手にし、その辺の馬鹿貴族共にも『ブルターニュ公』として認めさせ、金庫も開けたというのに! 肝心のイングランド軍が援軍に現れぬとは、役にたたんにも程がある!」
 ジャン・ド・モンフォールは、一時期ナントやレンヌ等の大都市をその手中に収めたものの、コンフランの裁定により、フィリップ六世にリモージュ子爵領、モンフォール=ラモリー伯領を没収されていた。
 つまり、公爵家の金庫を開けて得た金しか持っていなかったのである。
 そんな中、フィリップ六世は、彼らのブルターニュ継承戦争を「国内問題」と主張し、シャルル・ド・ブロワを公然と支持していた。
 しかも、十月にはそのブロワとノルマンディー公ジャン二世(後の善良王)がブルターニュに侵攻、翌月の一一月二一日には、ナントを含む多数の砦を落とし、ジャン・ド・モンフォールを拘束したのだった。

「おのれ……!」
 拘束されたジャン・ド・モンフォールは、憎々しげにシャルルとジャン二世を睨みつけた。
 二人とも、彼の息子と言ってもいい程、若かった。
 そして、それが益々彼をいらつかせていたのだった。
「しばらくここで、大人しくしておれ!」
 威厳を出す為か、まだ二二歳だというのに、口髭を伸ばし始めたジャン二世はそう言うと、ジャン・ド・モンフォールをルーブル宮の奥深くの牢獄に入れて、そう言った。
 その傍らで、シャルル・ド・ブロワは、馬鹿にしたように口の端に笑いを浮かべていた。
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