黒太子エドワード~一途な想い
「あやつめ、調子に乗りおって! 我らは、亡きジャン三世にブルターニュを譲られることになったおったというに! しかも、フランス王、フィリップ六世陛下にも、コンフランの裁定で、ブルターニュの摂政にして、ブルターニュ公でもあるとお墨付きをもらっておるのだぞ!」
 シャルル・ド・ブロワ Charles des Blois。
 マイエンヌ男爵にして、ギーズ領主であり、フランス王フィリップ六世の甥でもあった。
 彼はそう言うと、近くのテーブルの上にあったグラスを床に投げ捨てた。
 一三四一年のこの時、彼はまだ二二歳。
 美しい妻のジャンヌを娶ってからは四年の歳月が経ち、既に長男ジャンも授かっていた。
「あなた、あのような目に余る行為は、きちんと罰しませんと、示しがつきませんわ! 亡き叔父様があの方のことをどれだけ毛嫌いされていたことか! あなたは、それをご存じでいらっしゃいますでしょう?」
 まだ赤ん坊の長男を抱っこしながら、若くて凛とした妻がそう言うと、最近威厳を出す為か、口髭を伸ばし始めた夫は、頷いた。
「ああ、無論だ!ブルターニュの支配権が誰の手にあるのか、きっちり思い知らせてやるわ!」
 二〇代前半で、まだ血の気の多いブロワはそう言うと、右の拳で机を叩いた。

 ──この時、対するジャン・ド・モンフォール Jean Ⅱ de Montfort は、既に四七歳。
 ブロワ達のように血気盛んではなかったが、逆に自分の方が年上なので、何tしても早めに決着をつけ、幼い息子のジャンに跡を継がせたいと思っていた。
 ジャンヌ・ド・フランドルと結婚して、約一〇年経ち、ようやく出来た嫡男であったんので、可愛さもひとしおだったと思われる。
 だが、彼にとって、大きな誤算があった。
 頼みの綱であったイングランド王エドワード三世が、一三四〇年九月から約二年間の休戦協定を結んでいた為、動けなかったのである。
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