黒太子エドワード~一途な想い
「包囲を突破して援軍を呼んできた、というお話ですか?」
「ああ……。お前の耳にも、既に入っておったか?」
「ええ。そういう話は、庶民が好きそうな話ですもの。嫌でも耳に入りますわ。侍女達も噂しますからね」
「そういうものか……」
 そう言うと、ブロワは、ワインに口をつけ、窓から外の景色を見た。
「そういえば、あなた、もう一つ、面白い噂を耳にしましたわ。ご存じ? その女傑と呼ばれた女の血筋を」
「血筋?」
 ブロワは、その言葉を繰り返すと、妻を見た。
「たまに出るらしいですわ。おかしくなるのが」
「そっちの話か……」
 ブロワはそう言うと、苦笑した。

 当時の王族や貴族の結婚というのは、近親婚が多かった。
 この時代の近親婚で有名なのは、フィリップ六世の孫のシャルルだろう。
 後に「狂王」と呼ばれる彼は、父のシャルルが従妹と結婚したからだと言われているが、その前にも近親婚が繰り返されていたので、一代だけのせいではないと思われる。
 加えて、彼には、アンジュー公ルイをはじめとした「有力な叔父」が三人もいて、色々口を挟んできたので、精神的に不安定になった、とも言われている。
 
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