黒太子エドワード~一途な想い
「ふふ……。これならば、何とかいけるか……」
 モンフォール派の相次ぐ離脱の報告を受けると、ブロワはニヤリとした。
 だが、その三ヶ月後には、とうとうイングランド王のエドワード三世もブレストに到着し、ヴァンヌは包囲されてしまったのだった。
「フランス王は来ぬか……」
 クレシーの戦いの四年前とはいえ、二年前にスロイスでフランス軍はイングランド艦隊に大敗を喫したうえ、先日の八月には、港町で、城壁も堅固なカレーを奪われるのを恐れ、手を引き、それきりだった。
「仕方ない……。この状況で一人で戦いを続けるのは無理だな……」
 一人で懸命に闘ったブロワも、形勢不利を悟ると、ヴャンヌから手を引き、自分の領地へと戻ったのだった。

「大丈夫ですわ、あなた。むこうは、ジャン・ド・モンフォールが未だ獄に繋がれたままです。加えて、私達にはフランス王のお墨付きもあるのですもの!」
 久しぶりにブロワが、自分の領地の古い石で造られた屋敷に戻ると、妻のジャンヌ・ド・パンティエーブルがそう言って近付いて来た。手にワインの入った瓶とグラスを持って。
「……そうだな……」
 妻からそのグラスを受け取りながら、ブロワはそう言ったが、本当は
『そのフランス王が頼りにならんのだ!』
という言葉が喉まで出かかっていた。
「……ところで、子供達はどうしている?」
 その言葉を飲み込んで、ブロワがそう尋ねると、ジャンヌは微笑んだ。
「元気ですわ。先ほどまで家庭教師と一緒だったのですが、今は休んでおります」
「そうか……。あいつらの為にも、ブルターニュ公の地位を我が物にしておかねばな!」
「それはそうなのですが、でも、無理はなさらないで下さいね。あの方と私達では、年が二五も離れているのです。普通に考えれば、あの方の方が先に逝かれるはずですし……」
「そうなんだが、あやつの奥方も女傑らしいからな……」
 そう言うと、ブロワは苦笑した。
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