黒太子エドワード~一途な想い
「ほう……。子煩悩なのか?」
「まぁ、妻子を慈しんでいるとの噂は、ありますな」
 そう言うと、ジョン・チャンドスは再び心配そうな表情で黒太子を見た。
「何だ、チャンドス? 私は何度言われようと、好きでもない女と結婚する気は無いぞ! 跡継ぎなら、弟が二人おるのだしな」
「ジョン様とエドマンド様でございますか?」
「ああ。あやつらは、馬鹿ではない。私の後継として、指名してもよかろう」
「ですが、ジョン様は、やっと10歳。エドマンド様に至っては、未だ8歳ですぞ?」
 すると、黒太子は微笑んだ。
「ブルターニュ公を名乗っているジョン4世も、確かそれ位だったと言わなかったか?」
「それはそうですが……」
「何、頼りないと思えば、私が補佐すればよいのだ」
「殿下っ!」
 チャンドスが大きく目を見張ってそう叫ぶと、黒太子は笑った。
「何も、そんなに声を荒げずともよいであろう、チャンドス。私は一応、王太子(プリンス・オブ・ウェールズ)を名乗ってはおるが、必要とあらば、弟に代わってやってもよいと思っておるのだ」
「殿下、そのようなことを安易に口にされては……!」
「兄弟で争うよりは、その方がよかろう? 母上とて、我ら兄弟で争うのなど、見たくはないであろうからな」
「それはそうですが……」
 チャンドスはそう言うと、深いため息をついた。
「殿下のご教育の仕方を誤ってしまったのですかな……」
 小声で彼がそう言い、再びため息をつくと、黒太子は笑った。
「それこそ、結論を出すのが早過ぎであろう、チャンドス。私はまだ、何事も成しておらんからな」
「殿下は、先のクレシーでも立派に戦われましたが?」
「あんなの、まだまだだ! もっと父上のように、周囲の諸国に一目置かれるようなことをせねばな!」
「流石は、殿下!」
 チャンドスが満足そうに何度も頷いてそう言うと、黒太子は再び笑った。
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