黒太子エドワード~一途な想い
「エドモンド叔父上が処刑……? 一体、何の罪で!」
 その晩、わざと蝋燭を一本しかつけていない部屋で、ガウン姿のエドワードはそう言うと、顔色を変えた。
 その足元には、侍従姿の少年が跪いている。
「先の陛下への反乱容疑だそうでございます」
「首謀者は自分達だろうに、でっちあげもいいとこだ! 何でも思い通りになると思いおって、あの泥棒め!」
 そう言うと、ベッドの端に腰かけていたエドワードは、床をドンと蹴った。
「エドワード、落ち着いて!」
 そんな彼の傍に寄り、フィリッパがそう言うと、彼はムッとした表情のまま、こう答えた。
「これが落ち着いてなど、いられるか! 自分達を手伝った者でさえ、切ったんだぞ、あいつらは! このまま放っておけるか!」
「でも、落ち着いてもらわないと、困るわ。もうすぐ貴方は、父親になるんですもの」
「ち、父親……?」
 その言葉に、エドワードは驚いて妻を見た。
 言われてみれば、おなかの辺りが少しふっくらしてきたように見えた。
「最近よくストールなどをかけていると思っていたが、そういうことだったのか……」
「おなかを冷やさないようにということもあるけど、妊娠を貴方のお母様に知られたくない、というのもあったのよ」
「母上に? まさか、君は母上が……」
 そう言いながら、たちまち真っ青になる、エドワード。
「何もなさらないことを願うけれど、万が一の為に、ね。貴方のお母様は『佳人イザベラ』と今でも呼ばれ、あのロジャーの他にも言い寄る殿方がおられるわ。そんな人が『おばあ様』と呼ばれて喜ばれるとは、とても思えないから。こと、美しさに関しては、人一倍プライドが高くていらっしゃるし……」
「あの女め!」
 憎々しげにエドワードがそう言って怖い表情になると、フィリッパはその腕を掴んで、首を横に振った。
「ダメよ! それでも、貴方をこの世に送り出して下さった、実のお母様なのよ!」
「だが、私達の子供を害するようなら……」
「もう七ヶ月に入ったから、大丈夫だと思うわ」
 赤い顔でフィリッパがそう言うと、エドワードは妻の顔をまじまじと見た。
「そういうものなのか?」
「ふふ、そういうものよ。ねぇ、エスター?」
 フィリッパが、まだエドワードの足元で跪いている少年にそう声をかけると、彼は顔を上げずに答えた。
「そ、そういうことは、私には分かりかねます、お妃様。そういうことでしたら、姉にお聞き下さい」
「ふふ、じゃあ、安心ね。リリーがそう言っていたんですもの」
「でかした、フィリッパ!」
 エドワードはそう言うと、妻を抱きしめたが、すぐに慌てて離し、おなかをそっと触った。
「あなた、無事にこの子が生まれたら、エスターやリリーにお礼をしなくちゃね」
「そうだな」
「でしたら、今少し、お気を付けを」
 珍しく侍従のエスターがそう言うと、エドワードとフィリッパは顔を見合わせた。
「まだ危ないと申すか?」
「はい。陛下のことは、流石に王太后殿下が守られると思いますが、あの男が独断で突っ走る可能性もありますので……」
 その言葉に、エドワードは露骨に顔をしかめた。
「黙ってやられる気はないぞ! こっちも仲間を集めてやる!」
「お任せを」
 エスターがそう言って深々と頭を下げると、エドワードは頷いた。
「お前達姉弟の恨みも、その時に晴らせるようにしてやるからな」
「感謝申し上げます!」
 ロジャーに親を殺された少年はそう言うと、一層深く頭を下げたのだった。
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