黒太子エドワード~一途な想い

大勅令とドーファン

 一方、10月17日のパリでのラングドイル三部会で王国改造を叫び、顧問会議の設立を口にしたエティエンヌ・マルセルは、早速文書作成にとりかかっていた。
 議会で叫んだ通り、租税徴収、軍隊召集、休戦調印等の重要事項については、三部会の承認が必要であり、軍隊の編成までも三部会の意志で行ない、その為に三部会代表から成る顧問会議の設立を求めたものであった。
 彼は、その文書を「大勅令」と命名した。

「大勅令だと? 大袈裟な名をつけおって!」
 王太子シャルルは、第一身分の聖職者からその話を聞くと、そう言って憤慨した。
「ですが、王太子殿下(ドーファン)、今は陛下の御身をフランスに戻すことこそが先決でございます。その為には、ここは折れ、予算が出るように致しませんと……」
 そう言ってまだ18歳の王太子シャルルをなだめたのは、先日の会議でも第3身分と話をし、彼らが興奮している間に王太子を逃がした聖職者であった。
「そなたは、確か、ノートルダムの……」
「はい。大司教の座を賜っております、ピエールと申します」
 そう言いながら彼がほとんど髪の無くなった頭を下げると、王太子は手でそれを制し、「礼は不要」と示した。
「いや、先日は、私の方こそ、世話になった」
「いえ、とんでもない」
「だが、今回のは、流石に奴らの行き過ぎではないのか? よりにもよって『大勅令』だぞ? 我らを凌駕しておるつもりではないか!」
「それは、私も感じました。気に入らない、とも……」
 ピエールのその言葉に、王太子シャルルは大きく頷いた。
「ですが、王太子殿下、今はまず、陛下の身代金を払うことが大事かと存じます。思い上がった奴らのことは気に入りませんが、ここは折れて頂き……」
「嫌だ」
 だが、王太子シャルルは、はっきりとそう言ったのだった。
「殿下?」
「せめて、この文書の名を改めてからなら、認めてもよい」
 ピエールの方を見もせずにそう言う王太子に、ピエールはため息をつき、その場を後にした。
< 77 / 132 >

この作品をシェア

pagetop