黒太子エドワード~一途な想い

オリヴィエ・ド・モーニー

「何だよ、モーニー。今晩は、やけにつっかかるなぁ。オリヴィエから何か言われたか?」
「くっつくな、ベルトラン! それと、俺の名前もオリヴィエなんだから、ややこしいことを言うなって!」
 小柄な銀髪の男がそう言ってベルトランから離れると、彼は笑った。
「あはは、そうだったな! でもなぁ、弟と同じ名だから、他人とは思えないんだよな!」
 そう言いながらバンバン背中や肩を叩くベルトランに、小柄な銀髪のオリヴィエ・ド・モーニーは顔をしかめた。
「だから、やめろって! 痛いだろ! お前は、俺よりデカい上に、乱暴なんだから! 少しは自覚しろって!」
 モーニーがそう言い、既にほろ酔い気分のベルトランが全く気にせず、笑顔で応じた時であった。
「ベルトラン・デュ・ゲクラン隊長はこちらですか?」
 若く、品の良い男の声がそう尋ねたのは。
「おおっ? 誰だ、お前は? 俺に何の用だ? 酒か? 酒を一緒に飲みたいのか?」
 大きなジョッキを片手に、ベルトランがその若い男に近付くと、彼は苦笑しながら首を横に振った。
「いえ、お酒をもらいに来たわけじゃありませんよ。陛下からの親書を持って参ったのです」
「陛下?」
 聞き慣れない言葉に、ベルトランは目を丸くした。
「それって、どこの国の王様だ? 確か、フランスの王様は、イングランドに捕まってるんじゃなかったか?」
「はい。ジャン2世陛下は、まだ捕虜としえ、ロンドンにおられると思います」
「じゃあ、あんたの言う『陛下』って、誰なんだよ? まさか、イングランド……」
 そう言いながらベルトランが腰の剣に手を遣ると、それまで共に酔っているように見えた周囲の男達も、各々の剣に手を遣った。
「違います! 私は、ジャン2世陛下の嫡男で、摂政を名乗られている王太子シャルル様の使いです!」
「王太子……」
 その言葉に、ベルトランは剣から手を離した。
 周囲の男達もそれにならい、みんな一旦、その男から視線を逸らした。
「そういえば、オリヴィエも、そういうお偉いさんがパリに戻ったとかって言ってたな」
「オリヴィエ? ひょっとして、弟さんですか?」
 若い男のその言葉に、ベルトランは再び目を丸くした。
「そうだけど……何で知ってんだ? 俺、あんたに会うの、初めてだろ?」
「はい。ですが、事前に少し調べさせて頂きましたので、それ位は分かるのでございます」
「ほう……。良い情報ばっかならいいんだけど、俺の場合、そうはいかねぇだろ?」
「さぁ、どうでしょうか……。良い悪いの判断は、人によって違いますし……」
 そう言って若い男が作り笑いを浮かべると、ベルトランはにかっと豪快に笑って、その華奢な肩をばんと叩いた。
「あはは! 確かにな! 立場によって、判断も変わってくるしな! けどよ、あんちゃん、若いのに良い奴だなぁ! 俺みたいなのにも、そんなに気を使ってくれてよ!」
「そりゃあ、ゲクラン隊長には、これからもっとフランスの為に働いて頂かないといけませんから」
「そうか、そうか! 任せておけ!」
 そう言うと、ベルトランは彼に向ってジョッキ一杯のワインを差し出した。
「ああ、いえ、私は……」
「何だ? 飲めないのか?」
「いえ、ここまで急いで来たもので、空腹なんです。まずは、チーズか何かを口に入れたいと思いまして……」
「何だ、そういことか! じゃあ、その辺にあるものを食っておけよ! 足りなかったら、俺のツケにしときゃいいしよ!」
 そう言うと、ベルトランは上機嫌でジョッキを空けて、むこうに行ってしまった。
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