黒太子エドワード~一途な想い

エスターの息子

「いえ、お二人が仲がよろしくていらっしゃるのは、良いことだと思います。チャンドス殿のような色んなことに熟達された方が傍におられるので、うちの息子もお預けしたいと思ったのですし……」
「ほう! なかなか良く分かっておるではないか!」
 チャンドスが上機嫌でそう言うと、黒太子は再び苦笑した。
「分かった、分かった! 良かったな、チャンドス。じゃあ、エスターは、チャンドスとトマスのことを打ち合わせしてくれ」
 そう言うと、黒太子は右手を挙げ、軽く振った。
 どうやら
「話はこれまでだ! 二人とも、出て行ってくれ!」
という意味のようだった。
「そうですな。では……」
 そう言うと、チャンドスはエスターと視線を合わせて頷き、その部屋を後にした。
 二人が部屋から出て行くと、黒太子は窓際の大きな机の前の椅子に座り、引き出しを開けた。
「さて……母上に何と書くべきか……」
 父、エドワード3世と王妃である母、フィリッパの間には、彼自身を含め、7人の子供がいた。
 一番末の娘、マーガレットは、黒太子エドワードの初陣のクレシーの戦いの年に生まれていた。
 その後、産後の疲れから回復すると、彼女はカレー包囲網にも足を運び、投降してきたカレー市民を救ったりもしたが、その翌年には、次女のジョーンを病で亡くしていた。
 それがショックだったのか、彼女はそれ以降、大人しくイングランドの城を守っていたのだった。
「同じ名前だが、大丈夫……だよな? あの母上だし……」
 手紙用の紙を前にしてそうつぶやくと、黒太子はため息をついた。
 が、すぐに決心がついたのか、手紙を書き始めたのだった。

「ティファーヌ・ラグネル様、ですか?」
 その頃、先日のベルトラン・デュ・ゲクランの弟、オリヴィエ・デュ・ゲクランは、ある小さな灰色の石造りの城を訪ねていた。
「はい。どちら様ですか?」
 小さ目の灰色の石造りの城は、女一人で住むには大き過ぎる広さだったが、他に使用人はいないのか、30歳位の女性が出てきて、そう尋ねた。
 年はそこそことっているようで、目の端には皺が出来、現在は顔をしかめているせいか、眉間にも皺が出来ていた。
「私は、ベルトラン・デュ・ゲクランの弟で、オリヴィエ・デュ・ゲクランと申します」
 そう言うと、赤毛の青年は軽く頭を下げた。
 ベルトランのように四角い顔ではなく、卵型の顔であったが、目は同じ、大きな目であった。色も同じ青で。
 それでも「兄弟」と思えないのは、顔がシャープで、体もそんなに逞しくない上に、着ているものも傭兵のものとは違い、僧侶に近い、質素なものであったからかもしれない。
「まぁ、ベルトランの弟さん? それは、ようこそ! こんな所で立ち話も何ですから、どうぞ入って!」
 小さな城の主らしい女性はそう言うと、ところどころ鉄で補強してある大きな木のドアを開けた。
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