黒太子エドワード~一途な想い

一目惚れで強引に……

「どうしましょう! アンヌ、私、おかしくない?」
 ティファーヌがすぐ傍のメイドに尋ねると、少し年配の彼女は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お嬢様は、いつもおきれいです」
「又、そんなことを言って! 私はもう、いい年なのに!」
「そんな風にはとても見えません。ですから、早く玄関にお迎えに行って下さいませ」
 アンヌがそう言いながらティファーヌを部屋から追い出すと、男の使用人が玄関ホールのドアを開けて彼女が降りてくるのを待っているのが見えた。
 いつもは暗くなる前に自分の家に戻っていてもらっていた使用人に、不用心だからという理由で、家族共にこの城に住んでもらうようになっていた。先日、オリヴィエが来た時に、彼自身が交渉して、そういうことになったのである。
 オリヴィエの言う通りにしておいて、本当によかったわ。これで、少しは城主らしく見えるもの。子供の声が聞こえるのもいいし……。
 そんなことを考えながら階段をゆっくり降りて行くと、ドアのむこうで大柄な男が花束を抱えて立っているのが見えた。自分でも柄でもないことをしていると自覚しているのか、頭を掻きながら。
「まぁ、ベルトランったら! そんなに気を使わなくてもいいのに!」
 その姿にティファーヌが思わずそう言い微笑むと、彼も彼女に気付き、こっちを見た。
「あの……あんたがティファーヌ・ラグネルさんか?」
 彼がそう言いながら中に入って来ると、彼女は頷いた。
「ええ、そうですわ」
「こりゃあ、オリヴィエが言ってた以上に別嬪さんだなぁ!」
 心から驚嘆したのか、彼女の顔をじっと見ながらベルトランがそう言うと、ティファーヌは笑った。
「まぁ、お口がうまいんですのね! こんなおばさんにむかって!」
「お、俺はその辺りの奴らと違って、本当に思ったことしか口にしねぇよ! 思ってもないことを言って口説ける程、器用じゃねぇ!」
 ムッとしたのか、口を尖らせてベルトランがそう言うと、ティファーヌは再び笑った。
「あら、じゃあ、お礼を言いませんと! でも、私のことは、お忘れでしたんでしょう?」
「う……。そ、それはな……」
「昔々のことで、お忙しかったですものね。随分昔に助けた子供のことなんて、忘れてもしょうがありませんわね」
 意地悪だと分かっていても、ティファーヌがそう言うと、ベルトランはいきなり頭を下げた。
「すまん! まさか、あんたがそこまで俺のことを想ってくれてるとは知らなかったんだよ!」
「構いませんわ。だって、助けて頂いた時、私はまだたった10歳だったんですし、あなたは暴れたい盛りの17歳。とてもじゃないですが、恋愛対象になるわけがありませんでしたもの」
「それはそうなんだが……」
 困った表情でベルトランはそう言うと、ふと自分が持っている花に気付き、それを差し出した。
「お花……ですわね」
「ああ。ちょっとちっこいのがしおれてきたんで、途中で摘んできたんだが、こういう時にふさわしくないものが入っていたら、すまん! こういうことにどうも疎くて分からんのだ……」
 そう言いながら頭を掻くベルトランに、ティファーヌは突然、抱き付いた。
「ええっと、ティファーヌ……?」
 ベルトランが目を丸くしながらそう言うと、少し戸惑いながらも彼女の背中に手を回した。
 ティファーヌはそんな中、幸せそうに頬を紅潮させた。
「嬉しいわ、本当に……。あなたが花束を持って会いに来てくれるなんて、夢にも思っていなかったから、余計に……。ベルトラン、あなたが私のことを想って摘んでくれた花に、ふさわしくないものなんて、無いのよ! そんなことを私の眼の前で言う人がもしいたら、ただじゃすまなさいんだから!」
 そう言って笑うティファーヌの顔に、気付けばベルトランは釘づけになっていた。
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