LOZELO
10
10.ガラスの靴を履きましょう
次の治療まではあと一週間。
"まぁテレビでも見て…"と暇を案じる神崎先生の回診が、ここ3日くらい続いている。
暇といえる暇は、杏子ちゃんとの雑談か、勉強に費やしている。
江口先生は、私の勤勉っぷりに驚いているみたいだった。
「僕、数学は大の苦手でさぁ。完璧な文系脳だったから。高校に入ってからなんて、全くわからなかったよ」
数学は、得意科目の一つなのだ。
逆に、国語や英語、社会系が苦手だったりする。
膨大に存在する単語や歴史をインプットするという、それこそ腹が痛くなるような煩わしさを感じるようになったのは、高校に入ってからだ。
だからといって苦手科目を捨てていたわけではないから、それなりにはできるのだ。それなりに。中学生までのレベルにおいての話だけど。
「じゃあ江口先生、世界史とか日本史も得意なんですか?」
「歴史は好きだったよ。本読むみたいに授業聞いてるだけで、頭に入ってこない?」
「全然。その脳みそがうらやましいですよ」
「なんていうかさ、勉強だと思わないことだよ。歴史上の人物に感情移入しちゃうと、自然と覚えられるよ。あとは反復だね。何度も教科書読むとか」
先輩からのアドバイスはどれも私にとって感心するものばかりで、さらに勉強が楽しくなる予感がした。
昼ぐらいに莉乃からメールが来て、昼休みの時間だ、と学校生活を思い出しながらメールを開いた。
"紗菜ー!津川先生が紗菜のお見舞いに行きたいんだってー"
津川、とは頼りない担任の名前だ。
いつも言葉に覇気がなく、慕ってついていこうという気にはさらさらなれない女教師。
教師はみんな、私を目の敵みたいに思ってると、私はずっと"思い込んでいた"のかもしれない。
もしかして、ただの私の思い込みだったら。
一生徒として、注意"しているだけ"だったら。
浅野が私のことをターゲットにしろと教師に吹き込んでいるのかとか、自分勝手な妄想を信じてここまでやってきたけど、そんな学校があるだろうか。
でも、今さらだ。
この期に及んで全教師が私を敵に回していたとしても、堕ちることはないし。
ただの一生徒だと思っているのなら、私の思い込みを解けばいいだけ。