LOZELO
お父さんを病室から見送って、看護婦さんたちも私に"良かったね"と言葉をかけて仕事に戻っていき、病室には莉乃と杏子ちゃん、そして江口先生。
「早速ですけど江口先生、お父さんに何を言ってくれたんですか?ガツンと」
「いや、別に…大したことじゃないんだ。黒川さんが退院した時に、安心できる場所がないと黒川さんは再燃しかねないですよー的なことを、少し…」
かっこいいー!とおだてるのは、莉乃と杏子ちゃん。
恥ずかしがって"僕はただ、黒川さんのことを思って…"なんて言い訳をする江口先生は、立派に医者の顔。
なのかな?
「そ、そういえば黒川さん、医学部に進みたいって、さっき」
「あの…やっぱり、無理なんじゃないかなーって、今からじゃ…」
口に出してしまったら現実味がわいて、自信も揺らぐ。
「あきらめちゃダメだよ。僕は2浪した身だから、いくらでも応援するよ」
紗菜のために江口先生の講演会開こう!と莉乃が強引に江口先生を椅子に座らせて、私を挟んで莉乃と杏子ちゃんがベッドのふちに腰掛ける形。
そして、「テーマは"僕が医者になるまで"です!お願いしまーす!」なんて莉乃のお囃子が続く。
「先生、今日仕事とか…忙しくないんですか?」
「あいにく、今日は午前で仕事が終わりなんだよ」
「…残念賞」
まんざらでもない私も、先生を簡単に帰してあげるような親切心が沸いてこなかった。
目で訴えると、江口先生は苦笑いで降参を認めたようだ。
「しょうがない。頑張った黒川さんにご褒美だな」
どこまでも優しい江口先生は、私の先輩として、私に何を語ってくれるんだろう。
未来が輝いて見えたのは、まだ乾ききっていない涙のせいかなと、勝手に思ってこっそり微笑んだ。