LOZELO



「体調も良くなってきてるし、もうちょっとの辛抱だよ、紗菜ちゃん」


神崎先生は最近同じようなことしか言わない。

私の体調が良くなってきている証拠なんだけど。

その代わりに、私のプライベートな話を聞いてきたりすることが増えた。

彼氏いないの?とか。

いないから、先生の娘さんは?って質問を返してあげたら、うちの娘にはそんなのまだ早い!ってムキになってた。

あとは部活何やってるの?とか、学校のこととか。

勉強の息抜きに雑誌を読んでれば、記事のタイトルに疑問を持って私に質問してきたり。

中年のお父さんみたい。いや、確かにそうなんだけど。

説明したって、最近のトレンドが先生に伝わった試しはない。

そんな神崎先生が、たまに父親みたいに見えてくるから不思議だ。

私が勝手に作り上げてる、理想のお父さんみたいに。

もちろん、本物のお父さんはしっかりと存在した上でだけど。


「江口先生」


名前を呼んだのは、ママだった。

座っていたベッドから立ち上がって、軽く頭を下げる。


「紗菜ちゃんのこと、いろいろとありがとうございます」


感謝されたことに驚いて、江口先生が顔の前で手を振る。


「とんでもない」

「病気の症状がどんどん良くなってきてるのも嬉しいんですけど、何より、紗菜ちゃんが笑顔でいてくれるのが嬉しくて」


ちょっと涙ぐんだ声が、ママが溜め込んでいた思いの大きさを表してるようで、私まで少し涙腺が痛む。

ママを見上げて、背中をなでなでしてあげている澪も、心配顔。

そんな澪の背中を私も撫でた。
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