LOZELO



さっきから、口をつくのは退院を待ち遠しく思う言葉ばかりなのに。

もやもやが消えない。

これ以上強がり続けても無駄だよって顔の江口先生と目が合って、泣きそうになった。


「まだなんか引っかかってるって顔してる」


でも、わからないんだ。

何が私をこんな気持ちにさせてるのか。


「…よくわからなくて。なんか、ここ最近不思議な気持ちなんですよね」

「嫌な感じの気持ちなの?」

「んー…退院することは、全然嫌じゃないんですけど…退院したあとのことも」

「気づいてないけど、少し不安なんじゃない?」


妙に、その言葉が心に響いた。


「早く退院したいって気持ちは見ててすごいわかるけど、本当に大丈夫かなって気持ち、抑え込んだりしてない?今は離れてるから、なおさら」


逃げていたのかもしれない。本能的に。

現実とがっつり向き合うことから。

だから、漠然として見えない。

心がズキンと痛む感覚から、逃げてた。


「それでいいんだよ。今まで、自分の"体"としっかり向き合ってた証拠」

「…そう、ですか」

「考えすぎると、体に悪い」


考え込ませる種を植え付けたのは、江口先生なのに。


「多分、考えると思います。私のことだから」

「…でもね、黒川さん」


先生の口調は落ち着いていた。

ここに流れる空気みたいに。


「もし明確な答えを求めてるなら、考える時間は無駄だよ」


言ってる意味がすぐにわからなかった。


「黒川さんは、もう答え知ってるはずだよ」


江口先生の微笑みに、よどみなんて見えなかった。


「今、心に思ってる気持ちこそ、答えだよ。それをどう受け止めるかで見える世界はがらりと変わる」


不安。ただそれだけを抱えてた。

でも、"不安だけど、もっと輝いた自分に出会いたい"と捉えられたら。

不安な自分が今の私だと認められたら、そこから成長する権利をもらったも同然。

そこが"今の私"なら、前に進むしかないんだ。

その私は今、なにをすべきなんだろう。

それだけは、考え込んでもいいですか。
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