LOZELO



***


「おかえり、紗菜ちゃん」


今日は父親が家にいる。

澪を膝の上に乗せて、絵本を読んであげている。


「おぉ、紗菜。帰ったか」

「うん」


今日はまだ、ご飯ができていなかった。


「おかえり、おねぇちゃん」

「ただいま、澪」


優しい口調は、澪にだけ。


「紗菜、お前、飯ちゃんと食ってるか?」

「食べてるけど」

「そうか、久しぶりに見たらずいぶん痩せたような気がしてなぁ」


体重を測る習慣もないし、わからない。

でも言われてみれば、最近、制服のスカートのウエストに余裕ができたことを思い出した。

ずっと練習してたからかな。


「おねぇちゃん、具合悪いの?」

「大丈夫だよ、元気だから」


優しく頭を撫でて、自分の部屋に向かう。

きっと、私のこの態度に心も擦り減っているのだろうあの人たちに、申し訳ない気持ちはあるけれど改善しようとは思わない。

なぜ私が妥協して、赤の他人と家族ごっこなんてしなければならないのか。

その必要性を感じないから、私は態度を改める必要性もないと思っている。それだけだ。

再び訪れたお腹の痛みと、便意。

部屋にかばんを投げ捨ててトイレへと向かう。

今日も下痢。
というか、ほぼ水のような感じ。

便座から体を上げるとそこは血の海。

お腹も痛い。鈍い痛みが下腹部を刺す。

目下の事態に動揺している自分がいる。

言いようのない不安に、手が震えた。
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