LOZELO
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「おかえり、紗菜ちゃん」
今日は父親が家にいる。
澪を膝の上に乗せて、絵本を読んであげている。
「おぉ、紗菜。帰ったか」
「うん」
今日はまだ、ご飯ができていなかった。
「おかえり、おねぇちゃん」
「ただいま、澪」
優しい口調は、澪にだけ。
「紗菜、お前、飯ちゃんと食ってるか?」
「食べてるけど」
「そうか、久しぶりに見たらずいぶん痩せたような気がしてなぁ」
体重を測る習慣もないし、わからない。
でも言われてみれば、最近、制服のスカートのウエストに余裕ができたことを思い出した。
ずっと練習してたからかな。
「おねぇちゃん、具合悪いの?」
「大丈夫だよ、元気だから」
優しく頭を撫でて、自分の部屋に向かう。
きっと、私のこの態度に心も擦り減っているのだろうあの人たちに、申し訳ない気持ちはあるけれど改善しようとは思わない。
なぜ私が妥協して、赤の他人と家族ごっこなんてしなければならないのか。
その必要性を感じないから、私は態度を改める必要性もないと思っている。それだけだ。
再び訪れたお腹の痛みと、便意。
部屋にかばんを投げ捨ててトイレへと向かう。
今日も下痢。
というか、ほぼ水のような感じ。
便座から体を上げるとそこは血の海。
お腹も痛い。鈍い痛みが下腹部を刺す。
目下の事態に動揺している自分がいる。
言いようのない不安に、手が震えた。