LOZELO
一気に全身の力が抜けて、その代わりに自分が入ってくる気がした。
自分が、自分じゃなかった感覚。
優奈ちゃんと二人になって、ぽつりと聞かれた。
「紗菜ちゃん、お父さんとお母さんのこと、嫌いなの?」
少し考えて、ちょっと喧嘩してるだけだよ、と努めて明るく言ったつもりだけど、うまくはぐらかせたかはわからなかった。
深く聞こうとしないのはそれほど興味がないからなのか。私が聞かれたくないと思っていることを悟っているからなのか。優奈ちゃんにしか、それはわからないけど。
「絵本の続き、読もっか」
「うんっ!」
しばらくして戻ってきたのは、江口先生一人だけだった。
お父さんたちは帰った、と教えてくれる。
「よかったかな」
「別に話すこともないから。ていうか、私と一緒にいても辛いだろうし、よかったんじゃないですか」
「かなり心配してらしたよ」
「建前ですよ」
結構本気で、私はそう思っている。
私の声が聞こえないみたいに、江口先生は続ける。
「退院してからの生活は大事だ。再燃し続けたら、狭窄も悪化しうる。そうなったら開腹手術だ。腸閉塞のリスクも上がる。手術をしたら、子供だって出来にくくなる」
「今そういう話、やめてもらえますか」
嫌だったのは、私に説教していることよりも、これから未来に向かって歩き出そうとしている優奈ちゃんの前でそういう話をされることだ。
右手を握り締める。
「私は今、少なくともお父さんたちに会うことは求めてないから」
逃げたい。
たとえあの人たちが私を心から愛してくれていたとしても、それを受け止める隙間が私にはない。