LOZELO



お父さんが机の上で字を書く音だけが嫌に大きく聞こえて、目が合った優奈ちゃんは不安そうに私に寄り添っている。


「ごめんね、本、途中になっちゃったね」

「ううん、いいよ」


優しく髪をなでると、名前を書き終わったお父さんが私ではなく優奈ちゃんと目を合わす。


「何歳?」

「5さい」

「じゃあ、うちの澪の1つ下かな?来年1年生?」

「うん」


多分、私が無愛想な態度を取っているから、怖い人だとでも思っているのかもしれない。

いつもの優奈ちゃんより、声のトーンが大人しい。


「紗菜と仲良くしてくれて、ありがとうね」


なによそれ、私と仲良くできるなんてすげーな、みたいな言い方。

溜まっているものが溢れようとしている。

握ったお守りが力をくれるような気がした。

お母さんを捨てたってことは、私のことも半分捨ててるようなものなんでしょ。

澪がかわいくて、仕方ないんでしょ。

でも、爆発寸前で私を止めたのは、少し息を切らした江口先生だった。


「はじめまして、江口と申します…紗菜さんの、担当をしています…」


いろいろお話したいので別室に移動していただけますか、との言葉にお父さんは頷いたけど、私は動こうとはしなかった。

きっと看護婦さんが伝えたのかもしれない。

私に、初めて保護者が見舞いに来たことを。


「紗菜も」

「私は全部知ってるから、新しく聞くことはない」


同じ空間にいることさえ嫌な私を、江口先生はどう思っているだろう。

では行きましょう、の言葉に、来客者3人は江口先生と一緒に病室を出て行った。

ためらうように振り返った澪の、なんとも言えない表情が、少しだけ私の心を動かした。
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