LOZELO



「お、ママが迎えに来てくれたなぁ、今日の夜だけ我慢すれば、明日はママと帰れるからな」


わしゃわしゃと優奈ちゃんの髪をなでる神崎先生と、江口先生が回診に来た。

私はベッドに座って、莉乃へのメールを返すことにした。

下校時間なのだろう。

"帰りに浅野が絡んできて、ちょーうざかった"と、怒っている顔文字つきで送られてきた。

私が一緒にいたら、逆に喧嘩売ってやるのに。

そう打ち込んだところで、神崎先生に声をかけられた。


「高校生らしくなってきたなぁ」


入院してすぐは、ケータイなんていじらなかった。


「高校生ですもん」

「何、彼氏?」

「いたら、とっくに見舞いに来てると思いませんか?」


おじさんの絡み、って感じだけど、面倒な中に暖かさがあるから不思議だ。

神崎先生はいつも、なんだかんだ言って暖かい。

父親みたい。


「来週の頭から、治療始めよう」


気だるく返事をすると、神崎先生はにかっと笑う。


「江口君にちゃんと説明してもらった?」

「優奈先生に説明してもらって、かなりわかりやすくて不安も取れました」


ね、優奈ちゃん、と話を振ると、優奈ちゃんはにっこり笑って頷く。


「紗菜ちゃんが怖くないように、ちゃんと説明したよ!」


こんな先生がいたら、病気なんて怖くなくなりそうだ。

患者の目線に立って、満足するまで説明をして、いつも笑っている先生がいたら。

元気になってほしいという自分の意思が明確なら、真っ直ぐに患者さんのことを思う気持ちだって伝わると思うし、患者さんも、頑張ろうと思えるはずだ。

どうせ人のために生きるなら、優奈ちゃんみたいに誰かの心に安心とぬくもりを与えられたらいいのに。
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