LOZELO



***


「紗菜ちゃん、最後に絵本読んで」


優奈ちゃんが退院する日の朝。

最後の回診の後、私のベッドのそばに本を抱えてやってきた優奈ちゃんは、いつもみたいにニコニコ笑顔。

お母さんが来るのを、かわいい私服に着替えて待っている。

何度も読んであげた"シンデレラ"は優奈ちゃんのお気に入り。

私の隣、定位置に腰掛けて私を見上げて、声を待っている。

これで、最後なんだ。

そう思えば思うほど、一言目が出てこなくて。

出てきそうなのは涙。


「紗菜ちゃん?」


退院はすごく喜ばしい。私も嬉しい。

でも優奈ちゃんとバイバイするのは寂しい。

そう言いたいけれど、言葉より先に涙が溢れそうで。

何も言えなくなりそうで。


「読みたくないの?」


必死に、首を振った。


「優奈ちゃんとお別れするのが、」


もう、限界だった。

ごめんね、と一言謝って、本と共に優奈ちゃんを抱きしめた。

こんなにちっちゃな体で、一人でよく頑張ったね。

これからは体を大事にしてパパとママにいっぱい甘えるんだよ。

そう思いをこめてきつく抱きしめていると、私の耳元でもすすり泣く声。


「紗菜ちゃん、優奈と一緒にいっぱい遊んでくれて、ありがとうね」


優奈ちゃんの声も歪み始めて、二人してもう、何を言っているかわからないけど。


「紗菜ちゃん、優奈がいなくなったら、寂しくなっちゃう」

「うん。でも、私も早く退院できるように、おくすり頑張るよ」

「退院したら、また優奈と遊んでくれる?」

「うん、今度はお外でも遊べるから、いっぱい遊ぼう」
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