LOZELO
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「紗菜ちゃん、最後に絵本読んで」
優奈ちゃんが退院する日の朝。
最後の回診の後、私のベッドのそばに本を抱えてやってきた優奈ちゃんは、いつもみたいにニコニコ笑顔。
お母さんが来るのを、かわいい私服に着替えて待っている。
何度も読んであげた"シンデレラ"は優奈ちゃんのお気に入り。
私の隣、定位置に腰掛けて私を見上げて、声を待っている。
これで、最後なんだ。
そう思えば思うほど、一言目が出てこなくて。
出てきそうなのは涙。
「紗菜ちゃん?」
退院はすごく喜ばしい。私も嬉しい。
でも優奈ちゃんとバイバイするのは寂しい。
そう言いたいけれど、言葉より先に涙が溢れそうで。
何も言えなくなりそうで。
「読みたくないの?」
必死に、首を振った。
「優奈ちゃんとお別れするのが、」
もう、限界だった。
ごめんね、と一言謝って、本と共に優奈ちゃんを抱きしめた。
こんなにちっちゃな体で、一人でよく頑張ったね。
これからは体を大事にしてパパとママにいっぱい甘えるんだよ。
そう思いをこめてきつく抱きしめていると、私の耳元でもすすり泣く声。
「紗菜ちゃん、優奈と一緒にいっぱい遊んでくれて、ありがとうね」
優奈ちゃんの声も歪み始めて、二人してもう、何を言っているかわからないけど。
「紗菜ちゃん、優奈がいなくなったら、寂しくなっちゃう」
「うん。でも、私も早く退院できるように、おくすり頑張るよ」
「退院したら、また優奈と遊んでくれる?」
「うん、今度はお外でも遊べるから、いっぱい遊ぼう」