あの日、僕等は罪を穴に埋めた─secret summer─
頭ではわかっていた。

踏み込むな、踏み込んだところで、奈落の底に突き落とされるだけだって。なのに、伸びる腕の動きを止めることが出来ない。見たくない、見ちゃ駄目だ、でも、でも、でも…!


「!!」


柔軟性のある絨毯に落下する携帯は、音も立てず静かに画面を閉じていく。真っ暗になった液晶の奥には、消えない愚鈍な暴虐。


「そ…んな、嘘だろ……嘘って、っ゙――美菜…」


受信メールは全て美菜の母親。浮気専用の携帯電話。

そして、その受信メールのなかの一つに、


『こんなことを言うのは反則だってわかっているけど、いつかはちゃんと奥さんと別れて欲しいわ。美菜も、正尚さんに早く本当の父親になって欲しいって言っているもの』


〝美菜〟も、
正尚さんに早く本当の父親になって欲しいって言っているもの。


ミナモ
イッテイルモノ


なあ、嘘だろ。だって、こんなの、美菜も知っていたってことじゃないか。いや、知っていたどころか、応援していたっていうのか?いつから?最初から?ずっと?母親と俺の親父の関係を?


「……はは、ハハハハハハ!フフ、フハハハハハハハハハ!!」
 
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