身長差43センチのふたり。



すっかり機嫌が直った雛乃と手を繋ぎ、水族館を見て回る。


「千尋くん!見て見てっ、サメだよー…!」


一面の壁に貼りつけられているガラスの奥の水槽で優雅に泳いでいるサメを指さす雛乃の左手に光るブレスレット。

渡すタイミングは想像よりはるかに違ったけど…隣で満面の笑みを向けてくれる雛乃を見たら、それもいいかと思ってしまうのだから不思議だ。

彼女が笑顔が見れただけでこんなに心が満たされるなんて、1年前の俺じゃ考えられなかった。

雛乃が初めての彼女じゃない。でも、今までの恋愛の中で雛乃に抱く俺の想いは格段に違うことくらい、雛乃の泣き顔を見たときに思い知らされた。

放課後の教室で、俺が島津と帰ると勘違いをした雛乃が涙をこぼした時、心が潰れるくらい苦しくなった。

俺のせいで泣かせるなんて、もう2度としたくない。


『千尋くん!あの魚ッ――…っ!?』


まるで海にいるような水槽のトンネルの中。

あらゆる魚が泳ぐ姿に魅入られて顔を上げた雛乃の唇に、触れるだけのキスを落とした。


『っ!――っっ』

「照れすぎだっつの。」


さっきまで口を滑らかに動かしていた雛乃がかぁーっと全身を赤くさせて、そのぷっくりとした唇を魚のようにバクバクと動かせている姿を見て笑ってしまう。

あーあ、また拗ねちゃうかもな。

そう思いながらも、今度はどうやって可愛いお姫様を照れさせようかと企むのだった。



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