飼い猫と、番犬。【完結】
日本史学を専攻しているそいつ。
何やらレジュメを作成するのに資料が足りないと慌てて追加に来たらしい。


「歴史好きなん?」


当たり前だろう質問がホロリと溢れる。

好きだからこそ専攻しているのだろうが、俺からしたら到底読む気のしない本ばかりを熱心に眺める様子を見ていたらつい聞きたくなっただけだ。

なのに、


「嫌いですよ」


淀むことなくキッパリと返ってきた言葉に思わず面食らってしまう。


「……は? ほななんで専攻してんの?」

「んー教科書に載ってるような一方から見ただけの歴史は嫌いなんですよね。歴史は勝者が作るものですから。だから、もっと知りたくて」


タイムマシンが欲しいです、なんていう呟きはかなり本気で言っているように思う。

嫌いだと言いつつ自ら知識を貪るあたり、根の部分ではその逆なんだろう。
真面目なそいつらしいといえばそいつらしい。

そんな奏にふっと小さく笑った俺は気付かれないようにしながら、最後の本を仕舞い終わったそいつの真後ろに立った。
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