飼い猫と、番犬。【完結】
念の為、動かなくなったそいつの胸が上下しているのを確認すると、乱れた着物を直して早々に部屋をあとにした。

長居は無用だった。

目が覚めれば今宵のことなど夢の一部となっているだろう。

名前も、どこの誰かも知らない。

俺は勿論あいつも、そんなことはきっとどうでもいいのだ。



「あれ、栄太郎はんは?」


戸口を出ようとしたところで気配に気付いたのだろう、再び女将が奥から顔を出した。


「部屋で寝とる。俺は連れてきただけやさかいに」


二言三言、適当に返して今度こそその旅籠をあとにする。

栄太郎――最後に知ったその名前だけが、妙に頭に響いていた。



なんの巡り合わせなのか、再び出会ったその男はどうやら敵方の人間だったらしい。

そこに、あの時の弱々しさは見えなかった。

その身に纏うのは只々純粋な殺意だけ。

初めて対峙した沖田にまで憎しみを抱けるそいつはもうあの頃には戻れない。

誰かの死を望む時点で、死を憂う心などそこにはないのだから。

なら俺が、もう一度お前を楽にしてやろう。


――俺が、苦しまずに逝かせたる


それが僅かに道の交わったあいつへの、唯一の情けだった。




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