飼い猫と、番犬。【完結】
「まだまだやなぁ」
くるりと反転した視界には、古びた天井とクスクス笑う山崎の姿。
やられたと気付いても、押さえ込まれた手に、私は静かに怒りをぶつけるしかなかった。
「何のつもりですか?」
「男っちゅうんはあんま信用したらあかんねんで? 理性なんて意外と簡単に飛んでまうもんや」
……もしかして、平助達のことを言っているんだろうか。
ならとても不愉快だ。
「皆が皆貴方と一緒だと思わないでください」
「自分の行動に注意してやってんねん。今かてそうや、一人でのこのこやってきて。どーする? 誰も助けてはくれへんで?」
「っ」
柔らかな唇が耳朶を掠める。
触れるか触れないかの距離で囁かれる言葉が擽ったくて、体がピクリと跳ねた。
もう稽古は始まっている。どれだけ耳を澄まし気配を探っても近くには誰もいない。
元々此処は物入れとして使われていて少々目立たない所にある。声を出しても間違いなく誰も気付いてはくれないだろう。
しかも相手は『こいつ』だ。
あれ以来小さな悪戯のような絡みはあっても手を出してくることはないし、屯所だからとたかをくくっていたのが間違いだった。
あー馬鹿っ。
認めるのも悔しいけど確かにこいつの言うことはもっとも過ぎて言い返せない。
なのに山崎は後悔している余裕すら容易く奪ってゆく。
「っ……ひゃっ」
手首を押さえつける力は痛いくらいなのに、首を伝いおりる唇は酷く優しい。
心は嫌だと叫ぶのに、その微かに触れる体温に否応なく全神経が集中してしまう。
「やめっ」