飼い猫と、番犬。【完結】
「ま、この前の仕返しっちゅうんもあるけどな」
次はなんだと思わず身構えた私に、山崎は意地悪く目を細めて片方の口角をあげた。
仕返しと言われて浮かぶのは、あの無理矢理唇を吸われた時に舌に噛みついてやったことくらいで。
もしそうだとしたら意外にねちっこい奴だと思う。
と言うかあれは別に私悪くないんですけど!
「まぁこれでようわかったやろ? 何事にも用心っちゅうもんが必要やねん。ほな俺はまた寝るさかいそろそろ帰り」
反論しかけた私の手を引き立ち上がらせたかと思うと、流れるような所作で部屋の外へと私を押し出す。
振り返ればもう既に戸は半分程閉まっていて。
「おやすみぃー」
欠伸混じりのその言葉を最後に完全に視界は茶色い木の戸板で埋め尽くされた。
何度か瞬いて。
冷えた廊下に一人残されたのをゆっくりと理解すると、行き処のない感情が再び沸く。
反論出来なかった歯痒さ、してやられたことへの怒りと羞恥。
どうしても納得しきれないのは上手いように言いくるめられたようにしか思えないからだ。
ーーっ!!
そんな思いを吐き出す代わりに閉められたばかりの古びた木戸を一殴りして、何故此処に来たのかも思い出せないまま、私はどすどすと足に力を籠めながら自らの部屋にと向かった。
「あれ?どうしたの?それ?」