好きを百万回。


拾いあげて、手のひらにのせる。

「ごめん、それオレの」

野波さんがワイシャツの袖口を指さす。

「お時間、大丈夫だったらつけますよ?」

「お願い出来る?」
申し訳なさそうに彼が言う。


差し出された左手は大きくて、長い指に短く切りそろえられた爪。手首には重そうなメタリックの時計。

針で肌を傷つけないように、ちょっとだけ緊張して縫う。

「終わりました」
顔を上げると、思いの外近くに彼の顔があってビックリした。

「ありがとう、助かった」
彼が柔らかに微笑む。

「いえ、このくらい大したことないです」
< 15 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop