薬指の秘密はふたりきりで

締めの忙しさで日はあっという間に経ち、気づけば冴美の結婚パーティから10日が過ぎようとしていた。


「そういえば。先輩、聞きました?」


社員食堂。紗也香はうどんを食べる手を止めて、キョトンとしてる私に、ぐっと近寄ってきて声を潜めた。


「長谷川さんの噂です」

「亮介の?また、何かあったの?」

「はい。最近ずっと遅くまで残業してるじゃないですか。その帰りに、誰かと会ってるらしいんですよ」

「うそ、私、知らないよ。ただの噂でしょ?」

「例の差し入れ女子たちから出た話で、スマホで会う約束をしてるのを聞いたんですって。きっと、例のショートカット美人だって、みんな言ってますよ。先輩、あのこと確かめましたか?」

「まだ、何も聞いてない」

「何やってるんですか。早く聞いた方がいいですよ。不安の芽は、早く摘み取るのに限ります。男なんて、ほんっと、信用できないんですから!」


机をばん!と叩いて憤慨する紗也香に心底驚きながらも何とか宥めて、何かあったの?と水を向けると、営業の彼のことを話し始めた。

話を纏めると、彼が合コンに参加してそこで知り合った子と浮気をしたらしい。


「私だけって言ってたのに。酷いと思いません?」


彼は浮気を否定しているけれど、合コンに参加した夜のlineの返事も既読もなくて、紗也香は疑惑を高めてるそうだ。


「だって、その日に限ってスマホを一度も見ないって、絶対おかしいじゃないですか!」


彼は何度も謝りの言葉を入れてくるけれど、暫くは無視する予定だそう。

先輩の彼はそんなことないと思いますけど、本当に早く確かめた方がいいですよ!とぷりぷり怒りながら、再びうどんをすすり始めた。


彼の浮気、か。

亮介、あなたは、一体誰と会ってるの?

浮気、してるの?
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