薬指の秘密はふたりきりで
冴美が帰ったあと、パンフレットを手に取った。
ぱらっと捲れば、1ページ目には、幸せそうに笑む花嫁と、それを優しく見つめる新郎の姿が、見開きで大きく載っている。
次以降のページには各施設の写真と、イベントと料理の写真がプランごとにわけられてあった。
ここのどこかに、指輪をはめた私の手が載るんだ。
亮介は、どう思うかな。止めろって言ってくれたら、とても嬉しいけれど。
「ね、亮介は、どう思う?」
その夜、夕食を食べたあと、珈琲を出しながら冴美に頼まれたことを話してみた。
亮介は、パンフレットをパラパラ見ながら「ふーん」と言っている。
何だか、あまり興味がないみたい。
「ここのどこかに、指輪を嵌めた手が載るだけ?」
「うん。詳細はまだ聞いてないけれど、多分、それだけ」
「・・・じゃあ、してあげたら?」
一瞬間をあけてそう言うと、私にパンフレットを返してきた。
その表情は、笑ってもいないし不機嫌でもない、ごく普通のものだ。
「え、いいの?」
「・・・友達の役に立つのなら、いいことだと思う」
そう、なんだ。亮介は構わないんだ。
冴美は右手でいいって言ったけれど、結婚指輪だもの、左手を希望されるに違いない。
どの指輪のモデルだって、この指だけはずっと避けてきたのに。
最初に嵌めるのは、結婚相手から、亮介から贈られた指輪にしたいって、ずーっと思ってたんだけどな・・・。
そんなことに拘ってるのは、私だけなの?
なんか、一人でわたわたしてて、ばかみたいだ。
夢見るお年頃じゃない、もう、いい大人なのに・・・。
「そうだよね。じゃあ、やってみようかな・・・」