薬指の秘密はふたりきりで

「紗也香落ち着いて。いいの、慣れてるから」


そう。ここ5年の間、何度もこんな会話を聞いてる。

そりゃあもう、あちこちで。

なので今更腹も立たない。

けれど、亮介不足の今は、あの子たちの話は聞いちゃいけない気がする。

流石に、心が乱れそうだから。

とはいっても。

同じ部屋にいれば自然と耳に入ってしまうわけで――――


「あー、そうそう。そういえば、システム開発課の子が言ってたけど、長谷川さんには彼女がいるらしいってことだよ」


再び、えー!?って声が一斉に上がる。


「うそー、それもショックだぁ。それ、本当なのぉ?」

「誰、誰?社内の人?」


落ち着きかけた心臓が一気に跳ね上がって、手に汗がにじむ。


うそ。もしかして、ばれてるの?

システム開発課って言ったら亮介のところだもの、そこから出た話なら、かなり信憑性がある。

亮介、うっかり口を滑らせたのかな。

無口だから有り得ないと思ってたのに。

ううう、その彼女、ここにいます。

どうしよう、私の名前が出てしまうかも――――


食堂を出た方が良いかな。


おろおろしてると、紗也香が「最後まで聞いた方が良いですよ」って耳打ちしてきた。

総務課テーブルでは、お団子頭の子が中心になって話を続けてる。


「駅前のbarで、ショートカットの綺麗な女の人と一緒にいるのを見かけたことがあるんだって。顔を寄せ合って話してて、すごく親密そうな雰囲気だったって!」


うそ・・・ショートカット?って、それ、私じゃ、ない。

それ見たの・・・いつ?


「あ・・・」


声が喉まで出て、立ち上がりかけると、紗也香が腕を引いて戻してくれた。


「先輩のことじゃないですね。誰でしょうか」

「・・・うん」


私の髪はストレートで肩甲骨まである。

間違ってもショートカットには見えないし、大抵私の部屋で会ってて、駅前のbarには行ったことがない。

亮介、誰と一緒にいたの?

親密って・・・。
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