イジワルな先輩との甘い事情
「はい。だって素敵じゃないですか」
「それは素敵だけど……」
「彼女とかいるのかなぁ。柴崎先輩、知ってます?」
「……さぁ」
なんとも答えにくい質問に苦笑いを浮かべながら首を傾げると、安藤さんは少し残念そうな顔をしながら私が洗ったカップやスプーンを拭いていく。
ここは、三階のフロアにある部署共用の給湯室だけど、なぜか来客とかで使ったカップなどの洗い物は預金課がするっていうのが暗黙の了解となっている。
他にある、融資管理課や事務管理課には女性社員が極めて少ないから、仕方のない事なのかもしれない。
「あんまりそういう噂聞かないですもんねー。まぁ、いいですけど。彼女がいてもいなくても」
「いてもいなくてもって……でも、狙うって言ってなかった?」
「はい。いてもいなくても狙いますけど。私も彼氏いますし」
……私の読解力だとかの問題だろうか。
そう思って今の会話を頭の中で検証してみたけれど、やっぱり理解する事ができずに眉をしかめる。
安藤さんはとても偏差値の高い大学を出ている、頭のいい子だ。
仕事の飲み込みだって早いし、上下関係だってしっかりしている。野望もあるらしくて、「管理職目指します」って、高々に宣言されたのは入社してすぐの頃だ。
そんな志が高いのに、私みたいな頼りない先輩にもきちんと敬意を払ってくれるし、周りの事もよく見て場の雰囲気もよく読んでいる。