イジワルな先輩との甘い事情
先輩を称賛する噂はたくさんあって、仕事の有能さであったり外見の良さであったりと、ところ狭しと先輩が褒められている現状に、さすが先輩だと、思わず毎日にまにましてしまうのだけど。
知らない人がしている噂話にも、本当その通りですよね!って心の中でこっそり頷く毎日だけれど。
嬉しくない事もあったりで。
「狙おうと思うんですよ、孤高の王子様を」
今年、新入社員として預金課に配属された安藤さんが給湯室で言い出した言葉に、思わず洗い物をしていた手が止まる。
孤高の王子様というのは、安藤さんが北澤先輩につけたあだ名だ。
他の社員を、外見はもちろん、その物腰柔らかい態度だとか優しい笑顔だとか、びしっとこなす仕事だとかで引き離す先輩は、周りとは一段階も二段階も上にいる。
だから、それはまさに相応しいあだ名で、安藤さんが口にした時にはびびっと衝撃が走るほどだったのはまだ記憶に新しい。
安藤さんすごい……!って、今でも思っているほどだ。
「狙う……?」
聞き間違いかもしれない……というよりはそうであって欲しいと切に願いながら聞き返した私に、安藤さんはにこりと笑って頷いた。
安藤さんの長い黒髪が、胸の前で揺れる。