イジワルな先輩との甘い事情


だけど、そういうわけじゃなかったなら、なんで先輩はそんな事を決めたんだろう。
不思議に思って聞くと、先輩は「ああ、それは」って苦笑いにも呆れ笑いにもとれる笑みを浮かべた。

「自分を律するためっていうのが一番かな。
俺はひとり暮らしだし、花奈を泊めようとすればいくらでも連れ込めるけど、そんな事してたら花奈の両親に悪く思われちゃうしね。
だから、俺のために決めたルールだよ」

「それに」と続けた先輩が、今度は眉を下げて微笑む。

「曜日決めておけば、週に二回は必ず会えるから。
多分……花奈の気が変わらないようにって必死に繋ぎ止めていたのは、俺の方なんだ。
大学の頃から好きだったから」

最後の言葉に、声が出ないくらいに驚く。
だって、大学の頃からって……そんな事あるハズない。
私の方が先に先輩を好きになったって決まってるのに……。

困り顔で笑う先輩に、嘘つかないでください、とは言えなかった。

「ごめん。ついでに白状するけど、好きだって言わなかった理由、他にもあるんだ」
「え……」
「俺の気持ちを確かめたくて必死に好きだって言ってくる花奈が可愛かったから」

「でも、黙っていたせいで不安にさせてごめん」って、今日何度目かも分からない「ごめん」を言った先輩をじっと見つめて……それから、ふるふると首を振った。

言葉は足りていなかったかもしれない。でも、私だって言葉に頼りすぎてたから。
言葉なんかに拘らずに先輩の優しさを素直に受け入れられていたら……もっと早く気付いていたのかもしれなかった。

「今言ってくれた言葉全部が、長い告白みたいだったから……。
ずっと、好きって言われてるみたいに嬉しかったから……もういいです」

最後に「私も、好きです」と告げると。
別に告白したつもりでもなかった先輩は少し驚いた後、でも、ははって楽しそうに笑った。


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