イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
「横にいる男に聞いてごらん。嘘ついてごめんね」

久世さんは悲しそうに笑うと、後ろ手を振ってまたラウンジの方へ戻っていった。

やっぱり久世さんじゃなかったのか。

でも……今となってはそんな事どうでもいい。

刹那さんはお姉ちゃんの旦那さまになるんだもの。

「桜子、全部説明するから、落ち着いて話を聞け」

刹那さんが私に近づき、私の手を掴む。

全部説明って……お姉ちゃんがいるから私は要らないって話でしょう!そんなの刹那さんの口から聞きたくないよ。

これ以上惨めになりたくない。

引き際はわきまえている。刹那さんのお荷物になりたくない。

「嫌です!」

私は思い切り刹那さんの手を振り払い、やっと来たエレベーターに飛び乗った。

「お願いですから一人にして下さい!」

泣き叫びながら私はエレベーターの「閉」ボタンを押す。

刹那さんが「桜子!」と叫ぶ声が聞こえたが、すぐに扉が閉まり彼の姿は視界から消えた。
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