【短編】きっと明日は
杏祐がガタンと立ち上がり、私を抱き締めた。


「…何、急に」

温かさが心地よいが、戸惑ってしまう。


杏祐は積極的にこんなことをする人柄ではなかったから。


「俺らさ、入学早々友達いなかったよね」

「それは当たり前じゃないの?」


杏祐の息が髪にあたる。

くすぐったい。


「名前で盛り上がったんだよなぁ。どっちも《杏》が入ってるーって。懐かしいなぁ」

「懐かしい、とか。まだ六月だよ、二ヶ月しか経ってないじゃん」

「…それでもだよ。うわぁ、また杏果に会えるなんてな」



馬鹿みたい、一日しか経ってないのに。





私は腕の中で溜め息をついた。

何かあったのか?

こんな積極的な杏祐、初めてだ。
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