落ちる恋あれば拾う恋だってある

「何で夏帆ちゃんばっかり家事やるの? お互い働いてるんだから家事だって分担でしょ?」

椎名さんはフライパンで肉を炒めながら不思議そうな顔を向けた。

「そうですね……」

「俺の前では気を抜きな」

「はい」

私のペースに合わせて甘えさせてくれる彼が愛しかった。

椎名さんは早峰フーズの担当ではなくなった。早峰での作業もやり辛いし、元々私がいるから古明橋の担当になったらしい。私が早峰を辞めるなら行く理由もなくなったそうだ。

「今度から定期メンテ組を外れて、しばらくイベント装飾をやるんだ。そんで再来月からは新規オープンの大型リゾート公園の作業に行くね」

「それって来年オープンのですよね?」

「そう。自分から古明橋の担当になりたいって言ったのにすぐに定期を外れたのは怒られたけど、今リゾート公園に行ってる後輩が使えなくてさ。俺が行かないと」

ということはそこには修一さんの担当する新店があるわけで、早峰の本社の人が現地に行くこともある。

「気まずくないですか?」

「何で?」

「だって……」

もし修一さんがいたら……。

「早峰の店があるから? 俺は気にしないけど。みんなもう俺の顔なんて覚えてないよ。あの公園めっちゃ広いんだよ? 同じ時間にいたとしても会うことないから大丈夫。それにさ、もう忘れようか」

「え?」

「退職したんだし横山さんのことも早峰のことも早く忘れちゃいな。そろそろ俺だけを見てくれないとイラつくんだよね」

「あ……」

椎名さんはフライパンから目を離し私を見た。その顔は怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。
辞めたばかりとはいえ、いつまでも修一さんや早峰のことを話題に出すのは未練があるかのようで椎名さんを傷つける。無神経なことを言ってしまった。

「ごめんなさい……椎名さんを怒らせるつもりはなくて……」

「名前も。椎名さんって呼ぶんじゃないでしょ?」

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