落ちる恋あれば拾う恋だってある

宇佐見さんに協力して総務部の観葉鉢を動かしたり、一緒になって私を中傷した営業推進部の同僚たちはすっかり大人しくなり、宇佐見さんが停職になった頃から私を目の敵にするのをやめて避けるようになっていた。それは助かったと思う。

宇佐見さんの行動は全て常軌を逸していた。社内の観葉鉢を八つ当たりで割ったことはやり過ぎだ。
けれど結局一度も私への謝罪の言葉などなかった。





私は部長と共に社長と面談をし、その場で退職願いを出した。もうこの会社に愛想が尽きてしまった。
そして宇佐見さんとの騒ぎの中心になってしまったことで、今まで以上に注目され居辛くなってしまった。
次の職場が決まっていることが救いだ。今度は契約ではなく正社員として採用してもらうことになっている。

私が辞めることを決意した経緯についての一切を外部に漏らさないよう社長から強くお願いされたけれど、そんなことは言われなくても口にはしない。
その代わり椎名さんがあの場にいたことをアサカグリーンには伏せること、アサカグリーンとのリース契約を今後も切らないこと、私の再就職先には今回の件について一切情報を漏らさないことを約束させた。

早峰フーズという大手を離れることは惜しいことかもしれない。それでも私の未来は絶対に明るい。










「ただいま……」

私は椎名さんのアパートのドアを開けて玄関から声をかけた。恋人の家に帰ってくるということにまだ慣れない。

「おかえりー」

椎名さんはキッチンに立って何かを作っている。

「すみません、作ってもらって……」

靴を脱ぎ貰った花束をテーブルに置くと慌てて椎名さんの横に行った。私が夕食を作ろうと思っていたのに。

「別に。俺は今日仕事休みだからこれくらいやらなきゃ。てかここは俺の家だから俺が作るのは当たり前」

「でも……」

私がやらなきゃって、どうしても思ってしまう。

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