落ちる恋あれば拾う恋だってある
「夏帆ちゃん大丈夫!?」
総務部のフロアに戻るなり先輩の丹羽さんが私に駆け寄る。
「あの……私……」
言葉に詰まって何をどう言えば気持ちが楽になるのか分からない。
丹羽さんの肩越しに窓を見た。日が落ちて外が暗くなり、窓ガラスに私が映った。ガラスの中には酷い顔をした不細工な女が立っていた。
「夏帆ちゃん?」
丹羽さんは私をフロアの外へ連れ出した。
「私は……地味だし、可愛くないけど……楽に仕事してる訳じゃないです……」
「夏帆ちゃん……」
見た目に気を遣う余裕がない、生活するのに精一杯。でもそんなの言い訳だった。自分に関心がなかったのだ。
今更何をどうしたらいいのだろう。メイクの仕方が分からない。地味な服しか持っていない。私だって可愛くなりたい。綺麗になりたいよ。
「私は、夏帆ちゃんが一生懸命頑張ってるのを知ってる」
丹羽さんは優しい顔で笑いかける。そして私の顔に手を伸ばすと、メガネをはずした。
「本当は可愛いのも知ってるよ。ただ、夏帆ちゃんがそれに気づくのが遅いかな」
「丹羽さん……」
「夏帆ちゃん、今日は買い物行こう!」
「え?」
丹羽さんに連れられ、私は商業ビルでコンタクトレンズを新調した。服も買い、黒やグレーばかりだった私の服に新しい色が加わる。
「どの服も夏帆ちゃんに似合うよ。明日から生まれ変わって見返してやんな!」
「はい。ありがとうございます!」
いつも私を励ましてくれる先輩。優しくて、美人で、かっこいい旦那さんと結婚した、私の憧れ。
なりたいな。こんな女性に。
妹の千秋が帰宅するまで起きて待っていた。エステティシャンの千秋はいつも帰宅が遅い。
「おかえりー」
「お姉、まだ起きてたの?」