落ちる恋あれば拾う恋だってある
◇◇◇◇◇



朝会社の前を歩いているときから視線は感じていた。
早峰のエントランスに入ってエレベーターを待っているときも、総務部のフロアに入ったときも。
同僚がこそこそと私を見ている。ここ数日で気になるほど目立ってきた。

「おはよう」

丹羽さんが出社してきた。

「おはようございます」

「夏帆ちゃんちょっといい?」

「はい……」

丹羽さんはカバンをデスクに置くとすぐに私を非常階段まで引っ張っていった。

「どうかしましたか?」

こんな風に丹羽さんに二人きりになる所に呼ばれるのは良くない話の時だ。

「あのね夏帆ちゃん、修一くんとうまくいってる?」

「え?」

「何か困ってることない?」

「どういう意味ですか?」

「夏帆ちゃんのこと噂になってるのは気づいてる?」

「え? えっと……」

丹羽さんの言うことは何もかもがどう答えていいのか分からない。

「修一さんとは順調だと思いますけど……特に困ってることもないですし……」

「嫌な思いしてない?」

「いえ……大丈夫だと思います……」

「社内の噂はもう耳に入ったかな?」

「噂? 私のですか?」

「修一くんと夏帆ちゃんの」

「え?」

「夏帆ちゃんが修一くんを宇佐見さんから奪ったって」

「そんな! 違います!」

「夏帆ちゃんが修一くんにストーカーしてるんだって」

「どうしてそんなこと……」

だって私たちはお互い好きだから付き合ってるんだ。修一さんにストーカーなんてしないし、私は奪ったわけじゃない!

「違うんです! 修一さんと宇佐見さんは先に別れてたし、奪ったわけじゃないんです!」

「落ち着いて。私は夏帆ちゃんが修一くんを横取りしたなんて思ってないし、ストーカーみたいなことをしないって知ってるけど、もう社内でかなり噂が広まってる」

< 79 / 158 >

この作品をシェア

pagetop