どうぞ、ここで恋に落ちて

17.衝突地点






綺麗に片付いたシンプルなリビングに、突然無機質な着信音が鳴り渡る。

空気を切り裂いた音にハッとして、私と樋泉さんは同時にそちらを振り返った。


ふたりとも携帯を見つめてしばらくピタリと固まったままだったけど、5回目のコールを聞き終えても電話は樋泉さんを呼び続けている。

私は目の前の樋泉さんに視線を戻し、黒い瞳を覗き込んだ。


「樋泉さん、出てください」

「いや、でも、今は……」


眉を下げて首を振る樋泉さんは、そうは言ってるけど気になるみたい。


「大丈夫です。大事な電話かもしれないし」


私がそう言って頷く間も着信音は鳴り止まず、樋泉さんは困った顔をしながら私の左頬に手を滑らせた。


「ごめん。すぐ戻るから」


小さく呟いてソファから立ち上がると、カウンターキッチンの向かい側にあるテーブルへ歩み寄り、鳴り続ける携帯を取り上げる。

てっきり隣の寝室で会話をするんだろうと思って何気なく樋泉さんの行動を目で追っていると、電話の相手を確認して携帯を耳に当てた樋泉さんが、スタスタと私のいるソファの方へ戻って来た。


そしてさっきまで自分の座っていた場所にぽすっと腰を下ろし、私の右手を取ってスルリと指を絡める。
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