どうぞ、ここで恋に落ちて
マイ・スーパーヒーロー

19.女の子は何でできている?






色葉ちゃんは、芽生え始めた小さな恋に胸を張っていた。

今は追いつけなくたっていいんだって。

憧れる男の人に近づけるように、賢く綺麗になっていく女の子は、なんて誇らしげなんだろう。

自信のなさに怯えて、好きな人の隣にいる自分を肯定できない恋よりずっと素敵。


私は樋泉さんとの恋を、どんな恋にするつもりだったのかな。



* * *



閉店作業を終えた私は、アパートのある方向とは反対側に向かって歩いた。

一期書店から西の方へ歩くと、駅前から続く飲食店が立ち並ぶ通りになる。

頭上には乾いた夏の夜の風が闊歩し、煌びやかな街の隙間に吐息を吹きかけて昼間の熱を冷ましていく。


春町駅の近くまで来ると、駅へ向かう人の流れから外れ、入り組んだ路地を記憶を頼りにフラフラと歩いた。


「たぶん、この辺りにあるはずなんだけど……」


隠れ家のようなあのお店は、すぐに散ってしまう桜のように摑みどころがなく、こうしてひとりで歩いていると本当にここにあったのかと不安になってくる。
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